楽研究室
指導教員 | 楽 詠灝 教授 浦垣 啓志郎 助手 |
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テーマ | コンピュータグラフィックス研究 1.相互反射・多重散乱を考慮した写実的映像生成手法(放射輸送方程式解法) 2.目的の集光模様を生成するレンズの形状設計手法 3.粉体・クリームなどの連続体モデリング 4.目的の力学制約を満たす構造・形状設計手法 5.デザイン制御を組み込んだ非写実的CG表現 6.目的の質感表現を生成する非写実的CG要素の逆推定手法 7.画像ベースの質感合成手法 |
研究内容
コンピュータグラフィックス(CG)は映画や広告、ゲーム、VR、医療などの様々な場面において活用されています。本研究室ではグラフィックスの基礎技術である、画像⽣成のための写実的レンダリング技術や、モノの動きを予測するシミュレーション技術、計算機で形をデザインするための技術、また、応用技術として、グラフィックスを活用したインタラクション技術、およびアニメやイラスト表現などのための非写実的質感表現・編集技術について研究を行っています。
相互反射・多重散乱を考慮した写実的映像生成手法(放射輸送方程式解法)
計算機で映像を生成(レンダリング)するには、物体形状や質感情報、光源情報、カメラ情報を入力として、シーン中での光の伝播をシミュレーションします。写実的な映像生成を行うには、物体から反射された光が他の物体を照らす相互反射の効果を考慮することが重要で、またリアルな質感モデルも重要です。本研究室では、効率的な映像生成手法や、リアルな質感モデルなどを研究しています。
本研究室では、モンテカルロ積分やマルコフ連鎖モンテカルロ法等を利用して、高精度に放射輸送方程式を解くことで、写実的な表現を実現します。また、計算精度を犠牲にすることなく、計算を高速化することにも重きを置きます。これまでに空間分割に基づくアルゴリズムを開発し、散乱の計算を100倍以上高速化し、大気と雲を含む極めて非均質な媒質のレンダリング(図1)を実現してきました。
目的の集光模様を生成するレンズの形状設計手法
光学計算の逆問題として、与えられた照明効果を実現する物体形状の設計問題にも取り組んでいます。図2のように、目的の集光模様を入力として、プロジェクターなどの平行光を屈折させてその模様を投影するレンズを設計することができます。図2のそれぞれの写真の右側に見えているのは、CNC 切削機器を利用して実際に製作したレンズで、その左側には投影された集光模様が見えています。シャープなエッジを含む模様から滑らかな濃淡表現まで、あらゆる模様の投影を実現でき、光を自在にコントロールできます。
粉体・クリームなどの連続体モデリング
計算機で動きのある映像を生成するには、モノの動きの予測を行います。本研究室では、剛体やばね、流体など、様々な特性を持った物体を扱える高効率シミュレーション手法や、複雑な挙動を示す物体のモデル化などを研究しています。
本研究室では、物質点法(material point method)を利用した連続体のシミュレーションに力点を置いており、Herschel-Bulkley モデルや Drucker-Prager 降伏条件などの構成則を用いて、図3に示したクリームなどの非ニュートン流体や、砂などの粉体のシミュレーション手法を開発しています。また、物質点法と個別要素法を組み合わせた連成シミュレーションによる高速な計算法や、物性の異なる非ニュートン流体同士の混合体の流動性をモデル化する構成則の研究にも取り組んでおり、より複雑な流体のより高性能なシミュレーションの実現を目指しています。
目的の力学制約を満たす構造・形状設計手法
また、力学計算の逆問題として、力学制約を満たす物体の構造・形状設計にも取り組んでいます。図4の左から三枚の図が示すのは、金属の糸を布のように編むことで得られるワイヤメッシュという平面状の素材を利用して、目的の(色々な曲率をもつ)フリーフォーム形状を形成する手法です。ワイヤメッシュはシアー変形できますが、金属の糸は伸び縮みしないため、ワイヤメッシュの変形は大域的に伝播し、人手で目的の形状に成形するのは容易ではありません。我々の開発したデザインツールを利用すると、設計と成形のいずれも素人でもできるようになります。こうしたワイヤメッシュのデザインは建築におけるファサードデザインなどに利用できます。
図4の右側の二枚の図が示すのは、自重や指定した外力に耐えられるように設計したレゴスカルプチャーです。レゴブロックはその噛み合わせの構造上、一定の位置にしか配置できないため、その配置問題は複雑な組み合わせ問題となります。我々の方法は、現実的な時間で構造計算を行いながら配置を最適化し、安定なブロックの組み合わせを見つけ出します。こうしたレゴデザインは建築やラピッドプロトタイピングなどに応用があります。
デザイン制御を組み込んだ非写実的CG表現
アニメ・イラストのように非写実的なCG制作を行う際、物理に忠実な要素だけでなく、演出目的のデザイン制御を盛り込む必要があります。図5の上段では、物体形状や光源情報から定義される3DCGの陰影計算結果をアーティストの意図に沿って変形する研究に取り組んでいます。変形効果はアニメーションを通じて滑らかに補間され、元の陰影結果に自然に合成されます。さらに、図5の下段左のように初期値となる陰影計算結果全体の見た目を変えるような質感表現にも取り組み、陰影変形効果と併せて議論しています。
また、動きも非写実的表現の研究対象として考えることができます。図5の下段右では,モーションキャプチャーから特徴的な顔モーションを解析し、強調度合いを変えて上乗せすることにより表情の誇張化を実現しています。このように、我々の方法は、CG表現の中に作り手が制御できる部分を見つけ出し、元の表現と共存させることで編集効果を加えたアニメーションを効率よく合成できます。
目的の質感表現を生成する非写実的CG要素の逆推定手法
アニメ・イラストの3DCG表現の逆問題として、デジタルイラスト画の陰影の質感解析にも取り組んでいます。図6左の領域分割済み画像を入力として、中央に示される3DCG表現の要素(形状・ライティング・反射特性)を復元していきます。デジタルイラスト画自体に本来3D表現はありませんが、形状と反射特性を得ることで右側の図のように光源環境を変えて画像を合成できるようになります。
我々の問題設定では、写真画像とは異なり入力画像に手描きによる非物理的な陰影変化が多く含まれています。元となるアニメ・イラストの3DCG表現手法に習い、反射特性側に非物理的な陰影変化を許容することで滑らかな陰影アニメーションを生成できる分解を実現しています。より高度な課題として、反射特性がピクセル単位で異なるケースや合成された照明効果(陰影,、ハイライト)の分解など、様々な質感デザインの入力画像に対応可能な逆推定手法の実現を目指しています。
画像ベースの質感合成手法
画像の質感を解析して合成に活かすアプローチは、半透明質感のような写実的な質感表現にも応用できます。図7では,左の金属質感の動画を入力とし、上部に示された参照画像の半透明質感を入力動画に転写しています。1枚の画像から半透明質感を構成する物体形状や反射特性などの物理モデルを完全に推定することは困難であるため、ここでは、1枚画像から得られる画像特徴をベースに質感転写向けの合成変換を構成しています。
また、解析した半透明質感合成変換は動画に対して時間連続に適用することが可能であり、画像ペアのみを仮定した質感転写手法を破綻なく動画に展開できます。変換が複雑化する物理モデルを仮定した推定や深層学習ベースのスタイル転写では時間連続性を考慮した合成が容易ではありませんが、我々の手法では、入力と出力の関係が連続的になる変換で合成変換を構成することにより、時間連続性の課題にも対応しています。
研究者情報
教授:楽 詠灝 | |
学位 | 博士(情報理工学) |
所属学会 | 情報処理学会、画像電子学会、日本物理学会、粉体工学会、ACM、IEEE |
研究分野 | 情報学、 コンピュータグラフィックス、 光学シミュレーション、 力学シミュレーション、形状設計 |
助手:浦垣 啓志郎 | |
学位 | 修士(工学) |
研究分野 | コンピュータグラフィックス(特に物理シミュレーションと形状処理), ヒューマンコンピュータインタラクション(Augmented Reality) |