教員・研究室紹介
化学・生命科学科は13研究室からなり、物理化学系が4研究室、無機化学系が2研究室、有機化学系が2研究室、分析化学系が1研究室、そして生命科学系が4研究室です。教授室と学生居室、実験室のほとんどはJ棟の4〜7Fにあります。それぞれ独自のテーマで研究を行う一方、研究室をまたいだ異分野融合的なイノベーションにも積極的に取り組んでいます。
フロア図
7階 | 分子遺伝学 研究室 阿部文快教授 |
微生物化学 研究室 木谷茂教授 |
脳科学研究室 平田普三教授 |
実験研究室 | |
6階 | 生体分析化学 研究室 田邉一仁教授 |
生命情報科学 研究室 諏訪牧子教授 |
有機合成化学 研究室 武内亮教授 |
生体機能分子 合成研究室 杉村秀幸教授 |
実験研究室 |
5階 | 機能物質化学 研究室 阿部二朗教授 |
レーザー 光化学研究室 鈴木正教授 |
分光物理化学 研究室 坂本章教授 |
実験研究室 | 学科事務室 |
4階 | 錯体化学 研究室 長谷川美貴 教授 |
理論化学 研究室 中田恭子 准教授 |
先端無機薄膜 研究室 重里有三教授 |
共通会議室 | |
2〜3階 | 機械創造工学科 研究室 |
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1階 | NMR測定装置 |
研究室紹介・トピックス
先端無機薄膜研究室
私たちの研究グループは高性能なp型半導体である一酸化錫(SnO)薄膜の合成方法を確立し、p型電導機構を解明しました。様々な高精細表示素子や大容量記憶素子に応用されている酸化物半導体薄膜のほとんどはn型と呼ばれる半導体です。しかし、近年、例外的な存在であるp型の酸化物半導体薄膜に関する研究が活発になってきました。p-n接合と呼ばれる半導体デバイスの構造構築が酸化物薄膜の積層のみで可能になり、新しいデバイスの創出が期待できるからです。重里研究室ではフラウンホーファー研究所(FEP)との共同研究で、反応性スパッタリングという機能性化合物薄膜合成法に超高速でのin-situフィードバックシステムを適用することに成功し、多くのn型酸化物薄膜の高速合成法を確立してきました。この合成方法では様々な化合物の化学量論組成比を広い範囲で精密に制御することが可能です。
酸化錫は非常に興味深い物質で、最も安定な二酸化錫(SnO2)は顕著なn型の特性を示しますが、一酸化錫(SnO)は二次元的な層状の結晶構造を持ち、p型の特性を示します。前述の合成プロセスにさらに工夫を重ねることで、今回、p型、n型両方の高性能な酸化錫薄膜を連続的に合成し、それらの薄膜の構造解析や電子状態解析に成功しました。
これらの研究成果は、米国物理学協会(American Institute of Physics)が発行する応用物理学専門誌Journal of Applied Physicsに掲載されました(J.Appl.Phys.127, 185703(2020))。
論文の題名:
”p-type conduction mechanism in continuously varied non-stoichimetric SnOx thin films deposited by reactive sputtering with the impedance control”.
著者:
賈 軍軍(元:理工学部化学・生命科学科助教・重里研究室)
数金 拓己(理工学研究科理工学専攻博士前期課程修了・重里研究室)
中村 新一(元:理工学部附置機器分析センター)
重里 有三(理工学研究科教授)
脳科学研究室
運動神経は遺伝する
運動神経がいい人を見てうらやましく思ったことがあるでしょう。運動神経がいいとは、はじめから体の動かし方が上手なことや、ちょっとの練習で運動ができるようになることをいいます。つまり、運動神経がいい人とは運動能力の高い人なのです。運動神経のよしあしには個人差があり、アスリート親子のように運動神経が遺伝することを想起させる例は多数あります。運動神経に後天的な要素であるトレーニングが重要なのは明らかですが、遺伝的な背景の違いが運動神経の差をもたらしていることも経験則から知られていました。
本研究グループの大学院生である若松勇真は、ゼブラフィッシュという観賞用熱帯魚を人工的な水流の中で泳がせるスイムミル(図1)という実験手法を用いて魚の運動能力を定量評価し、ゼブラフィッシュではメスとオスで運動能力に差がないことを見出しました。ゼブラフィッシュは研究用の実験動物として確立しており、世界中の施設で交配維持され、遺伝的に異なる「系統」があります。多くの系統を取り寄せてスイムミルで運動能力を測定すると、TUという系統は運動能力が高いのに対し、WIKという系統は運動能力が顕著に低く、この運動能力のよしあしはそれぞれ親から子に遺伝することが分かりました。
これは経験的に知られていた運動能力の遺伝を定量的に結論付けたことになります。本研究から運動神経は遺伝するといえるわけですが、これは決して運動能力の限界が遺伝的に決まっていると主張するものではありません。むしろトレーニングの重要性を訴えるものです。魚でもトレーニングにより運動能力が向上するという報告があり、本研究の結果と合わせると、運動能力のスタート地点に個人差があっても、地道にトレーニングを行えば、誰でも運動能力を高めることができ、スポーツで活躍できるようになると考えられます。
本研究は2019年11月8日にネイチャー・リサーチ社が発行する学術雑誌サイエンティフィック・リポーツに掲載されました。
レーザー光化学研究室
鈴木正教授(理工学部 化学・生命科学科)と警視庁科学捜査研究所の共同研究により、科学捜査に応用できる新たな手法の開発に成功し、国際光工学会*の論文誌 "Optical Engineering" に掲載されました。
掲載論文題目:Photoacoustic imaging to examine documents altered by black pens on paper in forensic science
捜査の際に、意図的に黒く塗りつぶされた氏名や電話番号などの重要な文字の判読や領収書の金額を後から改ざんするなどの違法行為の立証のために、科学捜査により見えなくなった文字や改ざんの痕跡を可視化する必要があります。このような文字の判読や改ざんの捜査では、非破壊検査である赤外線画像や蛍光画像などの筆記具のインクの光学的性質に着目した手法が用いられてきましたが、すべての試料に対して有効ではありません。
この共同研究により、紙面上の隠された文字、改ざんされた文字を検出できる光音響分光イメージングの新たな開発に成功し、筆記具インクの識別の更なる高度化が確立され、"Optical Engineering" に掲載されるに至りました。
【出典】M. Suzuki et al., Opt. Eng. 2020, 59, 034106-1, 6, 7.
*国際光工学会:
国際光工学会(SPIE – The International Society for Optical Engineering)は、光学、フォトニクス、画像工学の分野における技術の進歩を目的とし、知識の情報交換、教育の継続、普及のために、出版物の発行、および国際会議や展示会などを主催する非営利の国際的な学会です(本部:アメリカ合衆国ワシントン州)。
論文誌 "Optical Engineering" は、本学会が発行する出版物のうちのひとつです。