先端素子材料工学研究室
指導教員 | 黄 晋二 教授 渡辺剛志 助教 |
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テーマ |
「次世代のエレクトロニクスデバイスの創成を目指して」 1.グラフェンの熱CVD成長 2.表面化学修飾を用いたグラフェンへの機能付与 3.グラフェンデバイスの作製と評価 4.グラフェン電極での電気化学発光に基づく医用分析デバイスへの応用 |
研究内容
「次世代のエレクトロニクスデバイスの創成を目指して」
半導体デバイスに代表されるエレクトロニクス技術分野では、これまでの小型化、高速化、大容量化といった 単調な研究開発方針の流れが限界に達しつつあり、新しい「価値」を生み出すことが求められています。
例えば、IoT(Internet of Things)においては、これまで追い求められていた高性能なデバイスだけではなく、様々な場所に設置できる安価で小型なデバイスや高い耐久性と信頼性を持ったデバイスが必要とされます。また、人間の状態を常時モニタリングし、健康状態の管理や事故防止を実現するシステムの導入が進みつつあり、生体に近い場所にデバイスが設置されはじめています。究極的には、生体の中にエレクトロニクスデバイスが入っていくことが予想され、これらの新しいシステムには新しいデバイスが必要になります。
我々は、新しいデバイスを作る材料として、グラフェン、薄膜グラファイト、薄膜ダイヤモンドなどの炭素系薄膜材料に着目しています。これらの材料は生体親和性が高いだけでなく、2次元薄膜材料であるため、高度に成熟した半導体デバイス作製技術をそのまま活用できます。これによって、ナノ領域で精密に制御された構造を持つデバイスの開発が可能となります。
研究では、デバイスの作製だけでなく、その材料の合成・結晶成長も研究の対象とし、各種応用に適した性質を持つ材料の開発に取り組んでいます。また、生体分子との相互作用に取り組む上では、生体分子が存在する液体中でのデバイス動作を実現する必要があるため、液体/固体界面での物理、化学、電気化学を重要なポイントとして研究を進めています。このために、様々な評価技術を駆使して界面のサイエンスに積極的に取り組み、これを高性能なデバイス実現への糸口としたいと考えています。
グラフェンの熱CVD成長
グラフェンを実用的なデバイスの材料として活用するには、大面積かつ高品質のグラフェンを成長する技術が必要です。 様々なグラフェンの合成・成長方法が提案されていますが、中でも、Cuなどの触媒金属基板上の熱CVD法(化学気相成長法) が有望な手法であると考えています。また、「グラフェン」と言っても、成長・合成方法によって欠陥密度、表面の官能基、 単結晶性、層数などが大きく異なります。
本研究では、各デバイス応用に最適なグラフェンを成長する技術を確立したいと考えています。 本研究項目では、熱CVD法における成長パラメーターや結晶成長のメカニズム・熱力学、基板表面処理技術などについて 研究を進めています。
表面化学修飾を用いたグラフェンへの機能付与
本研究項目では、グラフェン表面を化学修飾することによって、グラフェン自体には無い機能を新たに付与する技術について研究 しています。グラフェンやグラファイトは、様々な表面化学修飾が可能であり、これを機能化に活用することができます。UVオゾン照射による酸素官能基付与、窒素ドーピング、酵素の固定化などに取り組んでおり、これをデバイスへと応用することを目標としています。
グラフェンデバイスの作製と評価
グラフェンを用いたデバイスとして、生体分子を選択的に認識するバイオセンサーやバイオ酵素電池の研究に取り組んでいます。バイオセンサーは、小型な医療診断チップに応用することができ、特定の病気で増大(減少)するタンパク質の 定量的なセンシングを可能とするものです。バイオ酵素電池は、グルコース(ブドウ糖)など糖類の 触媒酵素反応で生じる化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出します。常温常圧動作、低環境負荷、人体内動作も可能など、大きな可能性を秘めています。
バイオセンサーは、グラフェンをチャネルとした電界効果型トランジスタ(FET)をセンサー部分として使用するため、 グラフェンFET作製技術が必須です。特に、生体分子が存在する液体中でのFET動作に注目しており、FETの評価を通してグラフェン/液体の界面やグラフェン/生体分子の界面での相互作用について知見を深めたいと考えています。
グラフェンの透明性、および、優れた電気伝導特性を活用した「透明アンテナ」の研究も進めています。透明アンテナは、景色の外観を全く変えることなく電波送受信という機能を付与することができるデバイスとして注目されています。現在までに、透明ガラス基板上に作製した単層グラフェンをアンテナエレメントとして用いたダイポールアンテナから電力が放射されることを実証しました。
グラフェン電極での電気化学発光に基づく医用分析デバイスへの応用
電気化学発光(ECL; Electrochemiluminescence)は、電気化学反応によって生じる発光現象であり、血液検査や尿検査などの臨床検査に利用されています。ECLに基づく検査は高感度測定が可能ですが、その装置は大型で高価なため、設置できる病院は限定されます。
一方、POCT(Point Of Care Testing)と呼ばれる小型分析器や迅速診断キットを用いたリアルタイム検査が近年注目されています。私たちはグラフェンを電極として用いることで小型かつ高感度な電気化学発光分析デバイスをつくれると考えています。
透明で高い電気伝導性を有するグラフェンは透明電極として利用できるため、光検出器を電極の背面に配置できるなど装置構成に自由度を与えることができます。また炭素でできているため、生体分子の修飾に適しており、使い捨て電極として利用することもできます。グラフェンの表面に検査対象物質に対応した酵素や抗体を修飾しておけば、測定時間の短縮や測定の簡便化につながることが期待できます。さらにスマートフォンなどに使われているCMOSイメージセンサなどの最新のデバイスと組み合わせることで、小型化や低コスト化につながることが期待できます。
図(上左)グラフェンのAFM&KFM 像 (上右)シリコン基板に転写した単層グラフェン(下左)PET 基板上に作製した、酵素バイオ燃料電池のための酵素固定化グラフェン電極(下右)単層グラフェンを用いて作製したマイクロ波帯透明ダイポールアンテナ
参考文献
- Shinji Koh, Yuta Saito, Hideyuki Kodama, and Atsuhito Sawabe, "Epitaxial growth and electrochemical transfer of graphene on Ir(111)/alpha-Al2O3(0001) substrates," Appl. Phys. Lett., 109, 023105 (2016).
- Shohei Kosuga, Ryosuke Suga, Osamu Hashimoto, and Shinji Koh, "Graphene-Based Optically Transparent Dipole Antenna," Appl. Phys. Lett. 110, 233102 (2017).
- Yusuke Hara, Koushi Yoshihara, Kazuki Kondo, Shuhei Ogata, Takeshi Watanabe, Ayumi Ishii, Miki Hasegawa, and Shinji Koh "Making graphene luminescent by adsorption of an amphiphilic europium complex," Appl. Phys. Lett. 112, 173103 (2018).
研究者情報
教授:黄 晋二 | |
学位 | 博士(工学) |
所属学会 | 応用物理学会、ニューダイヤモンドフォーラム、電気化学会 |
研究分野 | 電子材料工学、結晶成長、デバイス工学 |
助教:渡辺剛志 | |
学位 | 博士(工学) |
所属学会 | 電気化学会、日本化学会、応用物理学会、ニューダイヤモンドフォーラム |
研究分野 | 電気化学、無機物性化学、ナノ材料科学 |