北野研究室
指導教員 | 北野晴久 教授 孫 悦 助教 |
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テーマ | 物性物理(超伝導、電荷秩序)研究 1.Bi系銅酸化物超伝導体の固有ジョセフソン接合素子における巨視的量子トンネル現象 2.鉄カルコゲナイド超伝導体の微小ブリッジ部への電気化学的特性制御と対破壊電流密度測定 |
研究内容
現代の物性科学は、従来の物理・化学分野にとどまらず、ナノサイエンス、情報処理、地球環境、宇宙観測など今後益々重要になると思われる諸分野の重要な基礎を担っています。例えば、物性物理の入門講義で学ぶバンド理論は、量子論の立場で金属と絶縁体の違いを見事に説明し、スマートフォンなど便利な日常生活を支える半導体デバイスを誕生させました。一般に、物質中の電子のような微視的世界の物理を説明する量子論では、日常生活に根付いた概念では理解しづらい現象が数多く登場しますが、現代の高速大容量な情報処理と高感度な計測技術によって支えられる便利な日常生活は、量子論が示す摩訶不思議な振舞いを物質中で上手に利用することで発展してきました。
「難解だけど不思議で面白い」、この量子論に魅了された多くの研究者たちが集まる物性科学の分野において、物質中の自由電子が示す最も劇的でユニークな電気伝導現象が20世紀初頭に発見された「超伝導」です。通常、超伝導と言えば、リニアモーターカーへの応用に代表されるゼロ抵抗(完全導電性)と永久磁石の浮上実験で知られるマイスナー効果(完全反磁性)が有名ですが、我々の研究室では、超伝導状態で実現される、巨視的に莫大な数の自由電子対が示す単一の量子状態(クーパー対の量子凝縮状態)の形成に強い興味を持ち、その性質をさまざまな実験から詳しく調べています。例えば、微視的世界での壁の通り抜けを意味する量子トンネルは、量子論的不思議さを代表する例の一つですが、超伝導状態では巨視的スケールで量子トンネルが観測されます。「ジョセフソン効果」と呼ばれるこの効果は、1ボルトという電圧の基準を定めたり、地磁気の数十万分の一や数億分の一程度の微弱な磁場である心磁場や脳磁場を検出したり、量子コンピューターの心臓部となる基本デバイスを産み出すなど、数多くの先端的応用に利用されています。
北野研究室では、本学理工学部附置の機器分析センター内に設置された集束イオンビーム(FIB)加工装置を駆使して、電子間の強い相関効果に由来する高い超伝導転移温度と特異な量子物性で知られる銅酸化物超伝導体と鉄系超伝導体の微細加工素子を作製し、超伝導状態の性質やジョセフソン効果に関する独自の研究を続けています。その一部を以下に紹介します。
Bi系銅酸化物超伝導体の固有ジョセフソン接合素子における巨視的量子トンネル現象
ジョセフソン効果は2つの超伝導体を弱く結合させた超伝導接合において発現し、現在、研究が盛んな超伝導量子ビットの概念は1980年代初頭に発見された巨視的量子トンネル(MQT)現象を基礎にしています。我々は、超伝導層と絶縁体層が交互に積層した結晶構造に由来して、Bi系銅酸化物超伝導体の単結晶中に自然に形成される固有ジョセフソン接合(IJJ)に着目し、複数接合が原子スケールで互いに相互作用する場合の複雑な挙動を調べてきました。
ジョセフソン接合の電流電圧特性は、傾いた洗濯板上を転がりながら移動する仮想粒子の運動として解析され、MQTは仮想粒子が洗濯板上を量子トンネルする現象として理解されますが、IJJ系の場合、隣接する接合の有限電圧状態で発生する高周波振動が仮想粒子の運動に強く影響することが、我々の研究から分かってきました(参考文献1)。さらに、マイクロ波照射実験の詳細な解析から、非線形物理現象で登場する共鳴的な跳躍振動の実現が示されました(参考文献2)。
鉄カルコゲナイド超伝導体の微小ブリッジ部への電気化学的特性制御と対破壊電流密度測定
銅酸化物系に次いで超伝導転移温度Tcが高い鉄系超伝導体において、鉄カルコゲナイド(FeCh)超伝導体は、超伝導層だけの単純積層というシンプルさにもかかわらず、現在、大注目されています。その理由は、相対論的量子論や場の量子論に登場する質量ゼロのディラック電子や粒子と反粒子が同一と見なせるマヨラナ粒子が超伝導体表面で実現することが発見され、現在の超伝導量子ビットとは異なる方式の量子コンピューターを実現させる可能性があるからです。
我々は、電池でお馴染みの電気化学的手法を用いてFeCh超伝導体のTcを上昇させる技術に着目し、FIB加工で作製した微小ブリッジ部の超伝導特性を向上させる技術を開発しました(参考文献3)。さらに、従来の実験では求めることがほぼ不可能であった超伝導体単結晶におけるクーパー対破壊電流密度を、微小ブリッジ部の電流電圧特性から評価する実験にも成功しています(論文投稿中)。
参考文献
- “Increase of Phase Retrapping Effects in the Switching Rate from the Finite Voltage State of the Underdamped Intrinsic Josephson Junctions”, H. Kitano, Y. Takahashi, D. Kakehi, H. Yamaguchi, S. Koizumi, and S. Ayukawa, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 054703-1 - 054703-6 (2016).
- “Comparative Study of First and Second Switches with Nearly Identical Switching Current in Bi2Sr2Ca0.85Y0.15Cu2Oy Intrinsic Josephson Junctions”, A. Yamaguchi, H. Ohnuma, Y. Watabe, S. Umegai, K. Hosaka, and H. Kitano, J. Phys. Soc. Jpn. 88, 103704-1 - 073702-5 (2019).
- “Application of electrochemical method to microfabricated region in single-crystal device of FeSe1-xTex superconductors”, K. Okada, T. Takagi, M. Kobayashi, H. Ohnuma, T. Noji, Y. Koike, S. Ayukawa and H. Kitano, Japanese Journal of Applied Physics 57, 040305-1 - 040305-3 (2018).
研究者情報
教授:北野晴久 | |
学位 | 博士(学術) |
所属学会 | 日本物理学会、応用物理学会、アメリカ物理学会 |
研究分野 | 物性実験(特に低温物理、超伝導)、電磁波工学(特にマイクロ波物性) |
助教:孫 悦 | |
学位 | 博士(理学) |
所属学会 | 日本物理学会 |
研究分野 | 超電導、強相関電子系 |