下山研究室
指導教員 | 下山淳一 教授 元木貴則 助教 |
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テーマ | 超伝導体、機能性物質の研究 1.Bi系高温超伝導線材の高機能化と実用的超伝導接合の実現 2.RE系高温超伝導材料の高機能化 3.二ホウ化マグネシウム(MgB2)超伝導材料の高機能化 |
研究内容
Bi系高温超伝導線材の高機能化と実用的超伝導接合の実現
Bi系高温超伝導体のなかで最も臨界温度(Tc)が高いBi2223相の銀被覆多芯線材は高温超伝導線材実用を牽引している材料でTcは約110 Kです。液体窒素(沸点77 K)や冷凍機といった液体ヘリウム(沸点4.2 K)を用いない冷却方法で利用できるのが特長で、超伝導送電、各種超伝導磁石に用いられているほか、山梨リニア実験線の車両にも搭載されています。この線材のトップメーカーである住友電工社とは15年以上にわたって線材をより広い用途に使えるように高機能化するための共同研究を実施しています。
さらに、2017年度より科学技術振興機構の未来社会創造事業の大規模型プロジェクトにおいて超高分解能NMR装置開発に向けたBi2223線材の超伝導接合開発研究に本格的に取り組んでいます。これまでに世界初のBi2223多芯線材間の超伝導接合形成に成功し1)、超伝導接合の77 Kにおける臨界電流は100 Aを超えています。この成果はこれまでのBi2223超伝導体に関する材料科学的な基礎研究から蓄積された知見を活用して得られたものです。これからもBi2223線材自体の高機能化、Bi2223線材間の超伝導接合特性を向上させる研究をすすめ、高温超伝導技術をより広い分野で利用できるように努めていきます。
RE系高温超伝導材料の高機能化
RE系超伝導体(REはSc、Prを除く3価希土類元素)にはRE123、RE247、RE124の3つの相があり、このなかでRE123は合成が比較的容易でTcが90 K以上、さらに磁場中でも優れた臨界電流特性を示すことから、薄膜線材、薄膜デバイス、単一結晶から成る大型バルクなど様々な形態で応用が進められています。
本研究室ではフッ素を含まない原料溶液を用いた有機酸塩塗布熱分解(FF-MOD)法により金属基体上に薄膜を形成する研究を行っており、高度に2軸配向したRE123薄膜形成にハロゲン添加が有効であることを独自に見出し、実用的な臨界電流特性を持つ薄膜線材の開発にあと一歩のところに迫っています2)。
強力な固体超伝導磁石としての応用が期待されている大型バルク材料開発では不定比金属組成制御を通じた高機能化に取り組んでおり、最近は90 K級の超伝導化に必須な工程である酸素アニールにおいて共存水蒸気による劇的な酸素拡散促進の効果を発見し注目されています。
薄膜線材の研究ではJST先端的低炭素化技術開発(ALCA)での開発項目である導電性中間層の開発を進めており、薄膜作製においては住友電工、バルク材料開発では日本製鉄の協力をいただいています。
RE247、RE124についてはRE123と比べて研究例が少なく、超伝導体として、また超伝導材料としてのポテンシャルは十分に開拓できていません。私たちは不定比金属組成制御、ドーピング、合成条件の最適化などを通じて、これらの物質の超伝導特性の向上を図っています。
二ホウ化マグネシウム(MgB2)超伝導材料の高機能化
MgB2は2001年に本学の秋光研究室においてTc ~40 Kの超伝導体であることが発見された物質で、このTcは金属系超伝導体として最も高い値です。私たちはこの物質の多結晶体における臨界電流特性の決定因子、およびそれを改善する新規手法の開拓に関する研究を超伝導の発見直後より行っており、この数年はMgB2線材の実用化を目指している日立製作所と共同で研究を行っています。最近も、新規ドーパントMgB2C2の合成と臨界電流特性を高める効果の実証3)、B原料の品質によらない前駆体MgB4からの高臨界電流特性MgB2多結晶体の開発など、独自の発想に基づく成果が挙がっています。
以上紹介した研究テーマ以外にも、常磁性物質の磁気異方性を利用した汎用的な結晶配向技術として、永久磁石と低温エタノールを用いた新しい方法を提案しており、高温超伝導体に限らず多様な機能性材料創出につながる新規技術として発展させようとしているほか、密かに新規高温超伝導体の設計と探索にも取り組んでいます。
参考文献
- Y. Takeda, T. Motoki, H. Kitaguchi, T. Nakashima, S. Kobayashi, T. Kato and J. Shimoyama, "High Ic superconducting joint between Bi2223 tapes" Appl. Phys. Express 12 (2019) 023003
- T. Motoki, S. Ikeda, S. Gondo, S. Nakamura, G. Honda, T. Nagaishi, T. Doi and J. Shimoyama, "Promotion of Epitaxial Growth and Enhanced Jc by Coaddition of Br and Metals (Zr, Sn, Hf) to the Fluorine-Free MOD Processed YBCO Films", IEEE Trans. Appl. Supercond. 29 (2019) 6600804
- M. Sawada, J. Shimoyama, N. Takagi, T. Motoki, M. Kodama, H. Tanaka. "A new carbon source MgB2C2 for the synthesis of carbon-doped MgB2 materials ", Solid State Commun. 281 (2018) 53-56.
研究者情報
教授:下山淳一 | |
学位 | 博士(工学) |
所属学会 | 応用物理学会、日本物理学会、低温工学・超電導学会、電気学会、日本化学会、電気化学会、米国材料学会など |
研究分野 | 固体材料科学、固体欠陥科学 |
助教:元木貴則 | |
学位 | 博士(工学) |
所属学会 | 応用物理学会、低温工学・超電導学会 |
研究分野 | 超伝導材料科学 |